パックごはん

 かつて山岳部だった頃、糞重く横長でバランスの悪いキスリングから開放される幕営地、そしてそこで作るカレーは何よりのご馳走だった。肉と野菜を煮込んでルーをぶち込んだだけの、隠し味も何も無い普通のカレーだったが、空腹と疲労と、済んだ空気の透明な空は(時には雨でさえも)最高の調味料だった。


 個人の楽しみで山に入るとき、食事の支度に時間を取られたくないときは、レトルトカレーにパックのご飯だったが、それでも最高の調味料のおかげでうまかった。パックご飯は15分も煮なければいけなかったり、食器に盛り付けたご飯は、パックの隅のかたちがそのまま残って尖ってたりして、それもまぁ、今となってはいい思い出だ。


 日曜日の今日。
 山ではない都会の平地で、パックご飯の隅っこの、ごはんがつぶれてつるつるになった角に出会った。そういえば、この四角いパックご飯も、最近は見かけない。思い出がよみがえる。なんだか懐かしいなぁ・・・・


 ・・・で済むのだが、ここが某大手チェーン店のファミレスでなければ。
 考えてみれば、チェーン店のファミレス各店舗で、十穀ごはんなんていう手間のかかるものを炊いているわけも無いのだが、出来ればそれを気づかないでいたかった。


 十穀ごはんの鯛茶漬け、大変おいしゅうございました。
 おいしかった、だからこそ、パックご飯の隅っこはちゃんとほぐして盛り付けて欲しかったのです。