エイプリルフール

「今日何の日か知ってる?」


 女にこの疑問を投げかけられた男は、持てるすべて記憶能力及び予測能力を最大限発揮して、「女の求める答え」を導き出さねばならない。

 
 「エイプリルフール」


 正しい答えではあるが、女の求める答えでないことは百も承知。もちろん知ってるさ、という雰囲気を醸し出しながら、思い出すための時間を稼ぐという目的の為に発せられる言葉である。しかし、幸いにして「エイプリルフール」の「フ」くらいのところで「答えるべき答え」を見つけることが出来たため、間髪いれずに発言することができた。「うみのひ」だったら短すぎてこのクイックなレスポンスは不可能だったであろう。


 「そうだねえ、今回で何年目だっけ。どこか外に食事でも行こうか」


 直接答えを発するのではなく、遠まわしに「ああ、知ってたんだ」と思わせる、俺的模範解答である。この言葉によって、記憶していて且つ、記念日の祝いをすることにやぶさかではないんだな、という態度を示すことができる。


 世の既婚者のいったい何人が、「結婚記念日」を忘れて配偶者を不機嫌にさせたことであろうか。不機嫌になるだけならまだしも、家庭内紛争、ひいては離婚・家庭崩壊に陥る夫婦も少なくないだろう。そのくらい、女たちにとって「記念日」というものは大切なのだ。


 忘れはならない、と、いう気持ちをこめてこの日にしたのだ。エイプリルフールに入籍、俺的にもそれなりにインパクトはあった。あったはずだった。


 が、妻に聞かれるまで、実は忘れていたのだ。
 忘れないようにわざわざこの日にしたのに。
 そのような配慮をしていても、男はそれを忘れる物なのである。


 この文章を目にすることが出来た幸せな既婚者男性諸君よ。
 君たちの記念日が、いつだったのか、確認するのだ。


 しかし注意せよ。
 記念日は年に一度だけではない。
 そして、今思い出しても、その日当日、覚えていなければ意味はないのだ。
 その日、該当日当日が重要であり、「転ばぬ先の杖」として、あらかじめ何かをしておく、という事象は存在しない。